「それでも今日は好い日だ」

猫と裁縫と日常の雑記。

もうどこからどこまで書けばいいのか。

8ヶ月ぶりの読書日記。
もう記憶も薄れちゃうよね。
せめて3ヶ月おきくらいには書こうと反省。


『蜂の巣にキス』(ジョナサン・キャロル
ちょっと毛色の変わったものを読んでみようと思った。そして本当に毛色が変わってた。
マニアックでアメリカンで、なんだか「ツイン・ピークス」を思い出した。
私はたいてい、未読の作家は文庫の裏(または表紙の裏とか)にある案内文のようなものを読んで決めます。この本を買った時もそうでした。私の心をくすぐるものが書かれていたので。
で、これを読んだ後に、正直に思ったのは「面白くなくはなかったけど、まぁ作家を追いかけるまでもないかな」というようなもの。翻訳ものはどうしても、読むのにエネルギーを費やすので。
そして先日、本屋でぷらぷらしていて、「久しぶりに翻訳ものでも読んでみるか」とまた、文庫裏の文章を読んで、購入した1冊が『木でできた海』。……『蜂の巣にキス』のシリーズもの(?=同じ登場人物が出ている)でした。
……これは、運命?


犯人に告ぐ』上・下(雫井修介)
警察小説。この作家さんは上手いですよね。確か映画になってたなーという、うっすらとした記憶で読んでいて、ロン毛・無表情のオッサン刑事(主役)は、ビジュアル化したらトヨエツだろうかと思っていたら、古本屋で買った本なのにご丁寧に、映画の優待券がしおり代わりで挟まってました。トヨエツの顔でした。


『完璧な病室』(小川洋子
やっぱり喪失がテーマの小川氏。ただ、初期短編集ということで、最近の作品よりはもう少し生臭さがあるように感じられました。もちろんそれは作者の意図するところでしょうけれど、初期には生臭さと表裏にあるどこか透明な感情や不安定さを描いていた人が、最近では生臭さを廃した硬質な透明さ(と喪失)を表現していることが興味深いです。


『七つの黒い夢』(乙一恩田陸北村薫誉田哲也西澤保彦桜坂洋岩井志麻子
ダークファンタジーのアンソロジー。乙一氏が好きなので、彼が書いているというだけで買った本です。ブックオフだったしネ。総じて面白かったです。作家陣の中に1人、私が苦手な人がいるんですが、その人も短編だとそんなに腹立たしくない(でもやっぱり今ひとつだった)ので、アンソロジーとしてはまぁまぁ。


『むかしのはなし』(三浦しをん
コレ面白い。短編(中編含む)の連作小説集ですが、非日常をとても日常的に描いています。それぞれの短編に、テーマとして昔話が添えられていて、それは「かぐや姫」だったり「浦島太郎」だったりするんですが、先を読むと「なるほどね」と思う。そういう短編を幾つか読んでいると、それらに一貫するひとつの流れが見えてくる。これは、面白かった。
中の一編、「花咲か爺」をテーマにした「ロケットの思い出」は、自分にとっての福犬ロケット(川の上流から流れてきたのを拾った)の思い出話から始まります。主人公が過ごした数日のことが告白形式で書かれているんですが、なんだか馬鹿馬鹿しくて、でも切なくて綺麗な思い出になるその数日間は、ロケットと過ごした日々の形にとてもぴったりと当てはまりそうで。見も知らぬ雑種の犬を無茶苦茶に撫でてやりたくなるような一編でした。


『月魚』(三浦しをん
これはあれだね。三浦作品の中でも、あっち分野のほうだったね。
いや、嫌いではないです。ブックオフとかじゃない、本当の古書を扱う人たちの、ちょっとした人間関係を書いたお話。萌える人はいそう。でもこの古書店の若き店主は、京極堂を萌え路線にした感じじゃあるまいか(謎)。


まほろ駅前番外地』(三浦しをん
三浦作品が続きます。これは以前ここ(前の日記かな?)でも書いた『まほろ駅前多田便利軒』の続編というか、番外編のようなもの。直木賞を受賞した前作を興味本位で買って読んだらなかなかに面白かったので、実はひそかに続編を期待していたのでした。前作でいろいろ出てきた脇役たちをそれぞれ主役に据えた短編がまとめられています。若いヤクザの星くんとか、認知症で入院している曽根田のばあちゃんとか。
こうやって番外編を読むと、本編の続きを期待してしまうんですが……。どうなんですか、三浦さん(笑)。


『猫道楽』(長野まゆみ
長野氏の本はあっち分野ですね(謎)。わかってはいたんですが、これ結構あからさまだなぁ。
世の中ってそんなに、あっち分野の男性が多いんだろうか。そして、そういう男性に限って、そんなにみんな端正な顔立ちなんだろうか。いや、長野氏、好きなんですよ?(笑)


あめふらし』(長野まゆみ
『猫道楽』よりはあからさまじゃない。そして、ちょっと妖し系の幻想譚なので、これはあっち分野がダメな人でも楽しめるのかも。
タマシイを捕まえるオッサンが妖し系便利屋で、タマシイを拾われた青年がそこでアルバイトするオハナシ。


『のりたまと煙突』(星野博美
この人のエッセイ、割と好きです。これは、彼女と猫たちとの関わりを主軸にしたエッセイ。
この本の解説をしている角田光代氏もだけど、星野氏も私と同世代なのよね。私のほうがちょっと下か。
だからなんとなく目線が似ているというか、似ているからこそ異なる部分が際だって、その人の持つ感覚がとても気になる、そんな気持ちにさせられるエッセイ。


『人間腸詰-夢野久作怪奇幻想傑作選』(夢野久作
夢野久作初体験。いや、そろそろ『ドグラ・マグラ』でも読んでみようかなと思っていたので、その前哨戦として。なるほど、夢野氏はこういう感じなのかー、と思いました。
どういう感じかというと……うーん、グロテスクで異常心理で……なんというか、3つ4つの怪奇もの紙芝居のページをシャッフルして1つにまとめちゃったような感じ。デモオレ、コウイウノキライジャナイゼー。
次は『ドグラ・マグラ』ですね。ふふ。


『重力ピエロ』(伊坂幸太郎
伊坂作品は嫌いじゃないんだけど、っていうかむしろ好きだし、面白いと思うんだけど、やはりどこかに村上春樹の呪いがかかっているような気がする。単に文体だけの問題じゃなくて、演出法というのか、展開の仕方というか、なんかそのへんに。
でもこれ、面白かったですよ。兄と、出生に秘密がある弟が、落書きと連続放火魔の事件解明に乗り出すオハナシ。欲を言えば、事件解明の手がかりが簡単過ぎたけれど、でもこの小説の主眼はそこじゃないからOK(偉そう)。シニカルなハートウォーミング系は私の好むところです。


『殺人者は夢を見るか』上・下(ジェド・ルーベンフェルド)
精神分析医を探偵役に持ってきて、殺人事件を解決させるというミステリ。その設定自体に意外性はないけれど、登場人物にフロイトユングをそのまま持ってきたのは大胆だなと思いました。フロイトユングが、その意見の相違で仲違いしていったあたりなんかは、事実を元にしているだけあって、興味深く読めました。でも、印象に残らない一冊(二冊)。


『すべてのものをひとつの夜が待つ』(篠田真由美
篠田氏の、建築探偵シリーズ以外のものを読むのは初めて。正統派ゴシックロマンスにして本格ミステリ、と帯には書いてありました。何のことやら。
孤島に建つ巨大な洋館で、莫大な財産を相続するためのゲームに参加する5組10人の男女、というお膳立ては確かに正統派の匂いがしますね。古式ゆかしい感じ。
うーん、でも正直、結構な厚みがあるんですよ、この本。全編に渡ってゴシックゴシックー!っていう感じを押し出されると、ちょっと疲れますね。だって当然のごとく、死体が見つかったり、仲間が減っていったりするからさー。誰が死んでもおかしくない、同時に誰もが怪しい、そういう緊張感をちょっと保ちきれない、でも必死に保とうとしてる、そんな印象の本でした。


『鱗姫』(嶽本野ばら
感動の涙が云々と帯にはあったけれど、それはどうだろう。涙とか感動とか、そういったものは、私は特に感じませんでしたが、ただ嶽本氏の作品は、独特の世界観と文章が楽しめるので、それが好きな人にはOKかと。でも、個人的には『ミシン』を超える衝撃ではなかったし、冒頭あたりはちょっとチャレンジな部分も見られて、この作品は本人的にどうなのかなーと思いを馳せてみたりもしました。


『月への梯子』(樋口有介
母に借りた本です。コノヒトのは初めてですが、母は気に入ったようで、何冊か持ってました。
知能がやや停滞している主人公が、梯子から落ちて頭を打ったことをきっかけとして、どんどん頭が良くなり、なんだか別人のように。亡き母の言いつけを守りながら、アパートの管理人として慎ましく暮らしていた主人公ですが、事故の後からは、周囲の人々の素顔がどんどん見え始めて……というお話。
お膳立てはまるで『アルジャーノンに花束を』。作者はアルジャーノンを未読だそうですが、こういった類のお話は必ずアルジャーノンと比較されてしまうのがカナシイところですね。
うーん、最後のオチは、アルジャーノンの勝ち。(←それネズミ)


流星の絆』(東野圭吾
ドラマを先に見ました。クドカン無茶するなーと思って、原作を読みました。ドラマはクドカンっぽくなってましたが、原作は確かに東野テイスト。両親を殺された兄妹が犯人への復讐を誓って……という設定と、そこに兄妹を見守る老刑事がいたりするのは、さほど物珍しい道具立てじゃありません。東野作品の並びからみても突出しているようなものでもない。
なのにやっぱり、どんどんと次の頁をめくり、最後まで読まされてしまうのは、東野氏の力なんでしょうね。本を読ませる力というのは、奇抜な設定や独特の世界観だけじゃなく、そこに引き込む文章力なんでしょう。それはエンターティメント性にも裏打ちされていなければならない。そういう点では、東野氏や宮部氏、重松氏なんかが上手いんだろうなぁと思う。それはあくまで、私の趣味範囲内でということですけど。

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小学生の頃、読書感想文というものは、本のあらすじを書いて最後に「おもしろかったです」と添えれば成り立ったものだった。
高学年になって、「〜〜という部分が、特におもしろいと思いました」とか「〜〜という部分では自分も同じだなぁと思いました」と添えれば教師の受けがよくなると知った。
受けがよくなると思う部分を増やすと、規定の原稿用紙枚数ではあらすじを書ききれなくなってきて、あらすじを書かなくなると、読書感想文の受けはどんどんよくなった。
ただ、それを知っていながらも時々、あらすじ+ちょっとした感想だけで感想文の課題をクリアしていたのは、自分と他人の興味の観点が同じとは限らないと知った上での恥ずかしさもあったし、教育委員会とかいう得体の知れない組織からの賞状に何の価値も見いだせなかったからでもある。
今、読書メモを時々書いているのは、自分の記憶の補助としての外付け記憶装置というのが目的の殆どだ。だから、むしろあらすじを書いたほうが補助になるんだけれど。でもまぁ、自分が後からわかる範囲で、読んだ当時の感想を付け加えて書いておくだけでも、自分的に面白い。


今回、メモに書いた中にある『犯人に告ぐ』は、文庫版で読んでいる。その解説が……なんだか、小学校の頃の読書感想文を思い出させた。
作家の来歴を書き、あらすじを書き、合間に作家を誉め、またあらすじを書き、「ここは秀逸」的なことを書いてまた誉める。それは小学校5年生の頃に私が使っていた手法と何ら変わるところはない。
解説まで読み終えて、「なんだかつまんない解説だったなぁ」と思い、ひょっとして解説担当の人はある意味素人なのかもしれないと思った。警察小説なだけに、警察関係者とかが解説してたのかもしれない、と解説ページを開き直してみた。
「○○大学教授・文芸評論家」の文字がそこにあった。
ぇー。


時々、すっごく面白くない解説があるよね。
解説というのは、私情が入りすぎても面白くないけれど、私情が全く入らないのも面白くないと思う。作家の来歴や作品のあらすじなんてオマエに聞かなくてもいいよ、みたいな。誉めるのはいいけれど、誉め方がワンパターンだったり、引用が多すぎたりすると、食傷気味にもなる。それまでずっと作品世界にいて、作品を読み終えてから解説を読む人にとっては、引用などただの繰り返しだ。
多少、私情が入りすぎていたとしても、「この作家は自分にとってはこういう存在だ」とか「この作家がこの作品で述べているこの部分が自分にとっては○○だ」みたいな解説のほうが読んでいて面白い。その作品に付随するエッセイのように思えるから、ちょっと得した気分になる。
面白い解説を集めた本とか出たらいいのに、とか時々思う。


以上、読書メモでした。