「それでも今日は好い日だ」

猫と裁縫と日常の雑記。

猫ブログ。

猫のことをメイントピックとする猫ブログでは、猫に台詞をつけるのがよくあるようですね。
なので私もそれを真似してみようと思ったのですが、なかなか、台詞が当てはまりそうな写真がありません。
そこで、クロさんに直接、ブログを書いてもらおうと思いました。


◆◆◆


アタイは猫である。名前はクロシェ。
どこで生まれたかは頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でにニャーニャー泣いていた事だけは記憶にある。
……と、著名な猫作家の模倣をしてみたが、既に名前は付いているのだからどうにも格好がつかぬ。
ところがこの名前が曲者だ。
アタイの名前はクロシェである。だが、アタイの飼い主と自称する輩は、あまり正しく呼ばない。飼い主と自称し始めた当初こそ、アタイに名前を教えるように、クロシェ、クロシェ、と呼びつけていたが、当時は名を呼ばれるよりも、「こら!」とか「ちょっと!」と呼ばれるものだから、アタイは自分の名前をそれだと思っていたくらいだ。


それでもとにかく、アタイにも名前くらいはわかった。コラやチョット、ダメ、というのが幼名だろう。
少し前より、この飼い主と自称する輩はアタイのことを「クロさん」と呼ぶ。これは、さんというのは敬称であるから、この者がアタイに敬意を払っている証拠である。
だが、何やら最近は様子が違ってきている。
「くーろぽーん」
それはアタイのことだろうか。多分そうだろう。にゃ、と短く返事をしてやりながら、その呼び方は何だという抗議を尻尾の先を使って表現してみた。だが、飼い主と自称するくせに、この輩はアタイの表現方法を理解しない。
「クロぽーん」
「クロっちー」
「クロちーん」
「クロっちぇー」
最初の2文字があっていればそれで良いというものでもない。アタイは時折、返事をするのを躊躇うことがある。アタイは最後の文字まで理解しているのに、最初の2文字しか正しく呼ばれぬのは不愉快であるし、「クロぽん」などと呼ばれて返事をするのは猫としての矜持が許さぬ。それでもアタイが自分の名前だと認識していると知るや、この輩は図に乗るに違いない。それは業腹だ。
そんな時は大抵、飛びかかって噛みついてやるのだが、これもまた飼い主と自称する輩は理解せぬのである。
「こら、ちょっと! 痛いってば!」
そんなところでアタイの幼名を呼ぶ。
「痛いよ、クロえもん!」
それは、もはや本名よりも長い。
この飼い主と自称する輩はおかしな女だ。呼びにくい名前であればつけぬがよかろう。


先日、飼い主と自称する輩は、テレビを見ていた。アタイもテレビを見るのは好きだから付き合った。
赤い絨毯とかいうテレビ番組をやっていた。くだらないお笑い番組だ。
飼い主と自称する輩は、食事をしながらそれを見ていて、やがてその食事を食べ終えた。皿を片付けながら、ふと、気になったように呟いた。
「汗ばんだりー。らじばんだりー」
何がおもしろいのやら頓とわからぬ。
「らじばんだり! クロばんだり!!」
そうして、アタイの顔を指さすのだ。さすがにそれは名前ではなかろうと思い、ただただその指と顔を、交互に見つめたのだが、飼い主と自称する輩は繰り返した。
「クロばんだりー」
わけがわからぬ。
名前か。それを愛称とでも言い張るつもりか。


だが、土台この飼い主と自称する輩は頭が悪いのだ。アタイは拾われてほどなく人間の言葉を覚えたのに、この女はいっかな猫語を覚えようとしない。それにどうやらニートと呼ばれる者だ。アタイにも曜日の知識くらいあるのだが、この女は平日に昼まで寝こけていたりする。そのようにして、朝から働くことを知らず、夜中まで遊ぶ者のことを現代ではニートと呼ぶ。頭が悪い上にろくな職にも就いておらぬ可哀想な輩なのだ。
アタイはもう少し、この飼い主と自称する輩のことを長い目で見てやろうと思う。


◆◆◆

注)ニートじゃありません。