2014-09-30 魍魎の…… 猫 男は匣を持つてゐる。 大層大事さうに膝に乗せてゐる。 時折匣に話しかけたりする。壺や花瓶でも入つてゐるのか。 何とも手頃な善い匣である。 男は時折笑つたりもする。「にゃあ」 匣の中から声がした。 鈴でも転がすやうな猫の声だった。「誰にも云はないでくださいまし」 男はさう云ふと匣の蓋を持ち上げ、こちらに向けて中を見せた。匣の中には太つた猫がみつしりと入つてゐた。それを見ると匣の猫も むくりと顔を上げ、 「にゃあ、」 と云つた。ああ、怒つている。