「それでも今日は好い日だ」

猫と裁縫と日常の雑記。

ウラギリ。

少し前の話ですが、母が私のマンションに泊まりました。
母が泊まった部屋は、クロさんのトイレ&水飲みの「その2」が置いてある部屋です。
扉そのものは、廊下側から押し開ける形の扉になります。
もちろんクロさんは、ドアノブ(レバーではなく丸い形)は回せないので、扉が閉まっていれば中に入ることはできません。
だから母は、眠る準備をした後、クロさんのトイレと水を廊下に出して、扉を閉めたのです。


閉めたのですが……。
実は最後まで「かちっ」と閉まっていませんでした。
最後の、バネの力を使ったストッパーが、ノブの内部で戻りきっていない状態です。
つまり、ノブを回さなくても押せば開く状態に。
私は実はその事実に気が付いていたんですが、まぁクロさんにとって母はまだ2度しか会っていない「ヨクシラナイ人」です。なんだかんだ言っても、寝る時には私の布団の上でいつも寝ているんだし、トイレや水はもう廊下に出てるんだし、なんてことはないだろうと思ってそのまま放置しました。


そうして翌日。
「ちょっと! この猫、ドア開けるの!?」
ママンが朝っぱらから。
「いや、あんたがドアをきちっと閉めてなかっただけ。……なんで? そっち行った?」
「うん。布団の上から、足の間に挟まるようにして寝てた」
がぼーん。


クロさん……っ!
おまえは……っ!
おまえは、体温さえあれば誰でもいいのか……っ!!!
なんかちょっと裏切られたキモチ。


ただまぁ、猫はあまり好まないとか、猫のほうから私を嫌うとかいろいろ言っていたママンですが、クロさんの意外な外面の良さに、ちょっと心傾いています。
以前に会ったのはまだ子猫の頃で、クロさんに落ち着きがなかったんですが、今回はクロさんもオトナになっているので、ママンは「猫って意外とおとなしいし柔らかい」と言いながら、ちょっと撫でてました。
もともと動物好きな人だしね。
「にゃんこー」とだけ呼んで、一向に名前を覚えようとしないのは、彼女の仕様でしょうけれど。


さて。
ところでクロさんは、私の前では猫をかぶりません。
ただ、そんな活発なクロさんが役に立つこともあります。
昨夜の出来事ですが、私が遅い夕食をとろうとしていると、部屋の中で「ぱさぱさっ……こん、かん」という音がします。


きゃーーーっ!


蛾! おっきい蛾!(と言っても胴体の長さ4センチ程度)
とまる時に、羽根を折りたたんで身体にフィットさせ、遠目に見るどす黒く細長い紡錘形に見えるタイプの蛾です。
暖かくなると、ごくたまに我が家の破れ網戸から侵入してくるヤツです。
去年は、クロさんを避難させてから雑誌と殺虫剤を駆使して始末していたのですが、夕食を準備した直後だということもあって、殺虫剤は使いたくありません。
そこで。


「きゃー! クロさーん! とって! 蛾! とってとって! クロさんっ!!」
叫んでみました。
「にゃ(おk)」
返事をして、蛾に襲いかかるクロさん。
飛んだ隙を狙ってパンチ。
パンチパンチ。
逃げられてダッシュ。
追いつめてパンチ。
また逃げられてくんくん探して、ダッシュしてパンチ。
蛾が床に落ちます。
くんくんとニオイを嗅ぎながら近づいていくクロさん。
「きゃー! クロさーん! 食べないで! とらないでとらないで、蛾! それ蛾!!」
「にゃ(どっちやねん)」
目の前で食われるのは嫌です。
こちらは食事前です。
しばしの逡巡の末、重ねたティッシュで捕獲してぐるぐるとティッシュで巻きました。
そして、隙間から這い出てこられるのは嫌だし、かといって自力で潰すのも嫌なので、ティッシュの上からセロテープで更にぐるぐる巻き。
ぽい。


ふひーっ(汗を拭う)。
世間一般のオンナノコよりは虫を気にしない田舎育ちのカントリーレディなのですが、蛾は粉が飛ぶので嫌です。
それに、飛ぶヤツは3次元で移動するから、こっちが追えなくなるし。
北海道はゴキさんがいなくてヨカッタ。
ゴキさんがいたら叫ぶ頻度が高くなっていたことでしょう。
……そしてクロさんがゴキさんで遊んでいたことでしょう。


蛾の始末を終えて、私が夕食を再開した頃、途中でオモチャを取り上げられた形になったクロさんは、不機嫌そうにしていました。