「それでも今日は好い日だ」

猫と裁縫と日常の雑記。

あいづち。


最近、病院では院外処方箋を出すところが多いですね。
大きな病院の近くでは薬局が林立していたりして。
私が通っている病院でも、例に漏れず院外処方箋システムです。
いわゆるメディカルビルに入居している形で、そのビルの1階が薬局。
処方箋を出して、呼ばれるのを待っている間にも、その薬局を初めて訪れる人が、薬剤師さんにアンケート用紙(という名の問診票)をもらっています。


院外処方箋システムが多くなってから、実は一部で話題になっているのがこれ。
薬をもらおうとすると、薬剤師さんが根掘り葉掘り聞くのです。
不適切な薬を処方してはいけないから、という理由があって、聞かなければいけないんだという薬剤師さん側の主張もわかるのです。それに、例えば「他に飲んでいる薬はありますか」とか「今までに大きな病気をしたことがありますか」「アレルギーなどはありますか」くらいならわかります。
でも「何の病気ですか」「どんな症状がいつからあって、病院に行ったんですか」「今日はどんな処置(治療)をしましたか」までは聞かなくていいんじゃないかしら、と思うことも。


一部の掲示板ではこんな意見が。
「薬剤師のあの質問はプライバシーの侵害だ」
「医者に話したことをもう一度最初から説明しなければいけない」
「具合が悪くて行ってるのに、薬局のカウンターで立たされたまま、経緯を説明するのは負担だ」
「病院なら診察室があるが、薬局は公衆の面前で、大声で『今日は○○だったんですねー』と言われる。配慮が足りない」
などなど。


ただ、私としては「そうだそうだー!」と思いながらも、一概に「だから困る!」とは言えないんです。
というのも、数年前、私が過敏性腸症候群で近所の総合病院に行った際、医者はスゴク適当な人で、「じゃ、痛み止め出しときますね」なカンジだったんですが、その処方箋を持って近くの薬局に行くと、「ぇーと、今日は過敏性腸症候群、と……ん? 下痢や便秘はないんですね? 痛みも痙攣の痛み? ぁー……ちょっと待ってください」と言われて、その薬剤師さんは病院の担当医に直接電話をかけ、「この薬よりももっといい薬があります。幸い他の症状はないようですから、内臓痙攣時の痛みを抑えるだけのものにしては? そちらのほうが効きますよ」と処方箋の内容を変えさせ、私に薬を出してくれたのでした。
そしてその薬は確かによく効き、今でも(別の病院でではありますが)同じ成分の薬を出してもらってます。
だから、薬剤師さんが聞くことによって、より適切な薬を出すことも出来るし、不適切な薬を差し止めることも出来る二重チェックの役割を果たす、という理屈もわかるんです。
多分、薬局の薬剤師さんにカチーンときている人たちは、「聞かれているという事実」よりも、「聞かれ方」にお腹立ちなのでしょう。


という流れを踏まえて(長い前振り)。


先週、病院に行き、その後1階の薬局へ。
名前が呼ばれるのを待っている間、私の近くには、その薬局を初めて訪れたおじいちゃんが。
若い女性の薬剤師さんが、にこやかに近づきます。
「こんにちはー。本日、こちらの薬局は初めてでしたか?」
「んぁ? ああ、うん。初めて」
「すみませんが、保険証のほうお預かりしてよろしかったでしょうかー?」
ファミレス喋りだ。
「あ? なに?」
おじいちゃんは耳が遠い。
「保険証、のほう! お預かり、して、よろしかったでしょうかぁー」
大きな声でゆっくりと、ファミレス喋り。


おじいちゃんは、若かりし頃はガテン系だったろうと思われる快活な人。
老いてはいるけれど、骨格はがっしりしてたし、少しくぐもってはいるけれど、声も大きい。
でも耳は遠い。
「アンケートがあるんですけどぉ、どうしましょう、私が聞いて書きましょうか?」
「あ?」
「お聞きしたいことがあって、それをこの紙に書いていただきたいんですよー」
薬剤師さんは愛想がいいです。そう、まるでファミレスの店員のように。
「あー。俺ぁダメだー。頭わりぃからよ、ははは(笑)。(自分の頭をとんとんと指さし)頭ぁイカれてるんだ」
自分が年老いて、細かい字の読み書きが不便になったことを、おじいちゃんはそう笑います。
もちろん、冗談です。
「そうなんですねー(笑)」
待って。その相槌チガウよ。


とりあえず、薬剤師さんは問診票を渡さずに、自分で聞き取りをしてそれに書き込むことにしたようです。
「すみませんが、幾つか質問させていただきますねー」
「ぁあ、いいよぉ」
「今日はどういった症状で病院のほうかかられましたぁー?」
「あぁ?」
だから、ファミレス喋りはおじいちゃんに通用しないヨ。
「今日は、どうして病院行ったんですかー?」
「ああ、背中にねぇ、できものができてねぇ」
その場にいた全員がおじいちゃんの症状と、今日行った処置、処方された薬を知ることに。


どうやら、背中に出来たもの(良性の小さな腫瘍状のものだったよう)を皮膚科で切除し、痛み止めと化膿止めを処方されたようです。その時点でも痛み止めを投与されていたので、いつもより少々頭の働きが鈍っている、という意味合いもこめての「イカれてる」だったようです。
アンケートついでに、おじいちゃんのこれまでの半生も何故か知ってしまいました。若い頃は本州の造船会社で働いたこともあり、石炭景気の頃に北海道へ渡ってきて、炭坑関連の仕事をしていたとか。
若い頃に鍛えたおかげで、大きな病気をしたこともなく、胃腸も丈夫で、胃が痛くなったことなど一度もないそうです。


確かに、薬剤師さんによる聞き取り調査は必要です。
が、胃薬が処方されていないことを確認するためにそこまで聞かなくてもいいんじゃないだろうか。
まぁこの場合、聞かれてないのに勝手に喋ったのはおじいちゃんですが(笑)。


「薬のことぁわかんねぇよ。俺ぁ、馬鹿だからよー(笑)」
「そうなんですねー(笑)」


だから、その相槌はチガウ